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Author:藤倉@馬趙
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ツイッターに「キスお題ったー」というのがありまして、そこからネタを頂きました。
お題は
・シチュ:ベッドの上
・表情:「目を瞑る」
・ポイント:「手を繋ぐ」、「相手にキスを迫られている姿」です。
以下からどうぞ。
水底から浮上するように意識が覚醒してゆく。
精神と肉体の波が合致して趙雲は、ぽかりと目を開けた。
望か、もしくはそれに近い月齢の光が寝室の窓から射して、夜目が利かなくとも困る事はない。だが、その明るさを持ってしても、同衾していたはずの馬超の姿を見付ける事はできなかった。
褥に掌を滑らせてみると、温もりは思った以上に失せている。もしかしたら、寝入るのを待って抜け出したのかもしれない。
巣くう気怠さを押して身体を起こし、趙雲は短く息を吐いた。
窓の外に目を遣れば夜明けは未だ遠い。
男の身体を抱くのに飽いて、何処ぞの妓楼にでも寄り付いているのだろうか。月の傾きからして三更を回った頃合いだろうが、馴染みの、しかも今をときめく馬将軍のお召しとあれば、店の主は元より妓も嫌な顔はするまい。
己など、そもそもが家柄も財もない身の上だ。況して子を孕む事などできるはずもなく、ひいては馬宗家復興の役にも立たない。追われたとは言え、涼州の太守であった男の寵愛を独占するなど、過分というものだろう。
ほんの一時でも彼の慰みになれれば、それで十分だ。
身分を顧みればあまりにもささやかな願いは、失うものを持ち得ない境遇に起因するのかもしれない。
「孟起……」
虫の羽音ほどの小さな声で字を呟き、愛おしむ仕草で馬超が横たわっていた辺りに指を這わせる。
主公と仰ぐ劉備の大願成就のため、命を捧げる事はできない。代わりに、他の全てを差し出そう。されば。
「……今少し貴方の側に」
身を深く折り、褥に額ずく彼の姿は、天に奇跡を希う敬虔な人のそれに似る。否、あるいは祈りそのものであったかもしれない。
ただ、あまりに深く思考の海に沈んでいたせいで、背後で揺らいだ気配を察せられなかったのは不運と言うより他になかった。
「当たり前だ」
誰もいないと思い込んでいた室内から返った声に、弾かれたように趙雲が顔を上げる。振り返ってみれば、寝衣の上に袍を羽織っただけの馬超が立っていた。
「少しなどと言わず、その命が尽きるまで俺の側にいればいい」
独言を聞かれていたのかと、ばつの悪さに慌てて逃げを打ってみたものの、起きしなでは戦場で見せる軽い身のこなしなど望むべくもない。牀から下ろそうとした素足が床に着くより早く、力強い手に指を搦め取られてしまった。
好いた男の腕を振り払えるほど趙雲も強くはない。
結局は引き戻され、馬超と向かい合って牀に腰を下ろす羽目に陥った。
「出かけたのでは、なかったのですか……」
「はぁ? 馬鹿を言うな」
呆然と細い声で問うのに、馬超は目を丸くする。それから独り寝を強いた事を詫びるように、趙雲のほどけた髪をつるりと撫でた。
頬に触れる乾いた温もりが心地良い。
甘える猫のように顔を擦り寄せれば、馬超が吐息で微笑むのがわかった。
「お前を置いて、どこへも行きはしない」
柔らかな、けれど真剣みを帯びた声に目を上げる。
かちりと噛み合った視線は思いの外の鋭さをして、自然、趙雲に目を瞑らせた。
息が口元を掠め、唇が塞がれる。
ただ触れただけで離れていった稚拙な口付けは、だが趙雲に深い幸福を齎した。
月影が遠い。
一人を嘆いた夜の欠片は既に霞んで、重ねた体温に溶けて消えた。
お題は
・シチュ:ベッドの上
・表情:「目を瞑る」
・ポイント:「手を繋ぐ」、「相手にキスを迫られている姿」です。
以下からどうぞ。
水底から浮上するように意識が覚醒してゆく。
精神と肉体の波が合致して趙雲は、ぽかりと目を開けた。
望か、もしくはそれに近い月齢の光が寝室の窓から射して、夜目が利かなくとも困る事はない。だが、その明るさを持ってしても、同衾していたはずの馬超の姿を見付ける事はできなかった。
褥に掌を滑らせてみると、温もりは思った以上に失せている。もしかしたら、寝入るのを待って抜け出したのかもしれない。
巣くう気怠さを押して身体を起こし、趙雲は短く息を吐いた。
窓の外に目を遣れば夜明けは未だ遠い。
男の身体を抱くのに飽いて、何処ぞの妓楼にでも寄り付いているのだろうか。月の傾きからして三更を回った頃合いだろうが、馴染みの、しかも今をときめく馬将軍のお召しとあれば、店の主は元より妓も嫌な顔はするまい。
己など、そもそもが家柄も財もない身の上だ。況して子を孕む事などできるはずもなく、ひいては馬宗家復興の役にも立たない。追われたとは言え、涼州の太守であった男の寵愛を独占するなど、過分というものだろう。
ほんの一時でも彼の慰みになれれば、それで十分だ。
身分を顧みればあまりにもささやかな願いは、失うものを持ち得ない境遇に起因するのかもしれない。
「孟起……」
虫の羽音ほどの小さな声で字を呟き、愛おしむ仕草で馬超が横たわっていた辺りに指を這わせる。
主公と仰ぐ劉備の大願成就のため、命を捧げる事はできない。代わりに、他の全てを差し出そう。されば。
「……今少し貴方の側に」
身を深く折り、褥に額ずく彼の姿は、天に奇跡を希う敬虔な人のそれに似る。否、あるいは祈りそのものであったかもしれない。
ただ、あまりに深く思考の海に沈んでいたせいで、背後で揺らいだ気配を察せられなかったのは不運と言うより他になかった。
「当たり前だ」
誰もいないと思い込んでいた室内から返った声に、弾かれたように趙雲が顔を上げる。振り返ってみれば、寝衣の上に袍を羽織っただけの馬超が立っていた。
「少しなどと言わず、その命が尽きるまで俺の側にいればいい」
独言を聞かれていたのかと、ばつの悪さに慌てて逃げを打ってみたものの、起きしなでは戦場で見せる軽い身のこなしなど望むべくもない。牀から下ろそうとした素足が床に着くより早く、力強い手に指を搦め取られてしまった。
好いた男の腕を振り払えるほど趙雲も強くはない。
結局は引き戻され、馬超と向かい合って牀に腰を下ろす羽目に陥った。
「出かけたのでは、なかったのですか……」
「はぁ? 馬鹿を言うな」
呆然と細い声で問うのに、馬超は目を丸くする。それから独り寝を強いた事を詫びるように、趙雲のほどけた髪をつるりと撫でた。
頬に触れる乾いた温もりが心地良い。
甘える猫のように顔を擦り寄せれば、馬超が吐息で微笑むのがわかった。
「お前を置いて、どこへも行きはしない」
柔らかな、けれど真剣みを帯びた声に目を上げる。
かちりと噛み合った視線は思いの外の鋭さをして、自然、趙雲に目を瞑らせた。
息が口元を掠め、唇が塞がれる。
ただ触れただけで離れていった稚拙な口付けは、だが趙雲に深い幸福を齎した。
月影が遠い。
一人を嘆いた夜の欠片は既に霞んで、重ねた体温に溶けて消えた。
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